そこで、予告の通り、「対比」と「問い」を上げてもらいました。
「対比」については、たちまち複数の同じ回答が上がってしまったのですが、それはその通り、そうです、こちらの想定通りです。
対比 メカ少年/少年この対比から導き出される「問い」もまた、やはり想定通りに上がりました。
問い 「少年」とは何か?この「対比」と「問い」の関係は、「ホンモノのおカネの作り方」と相似形です。
対比 メカ少年/少年
問い 「少年」とはどのようなものか?
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対比 ニセガネ/ホンモノのおカネ「ホンモノのおカネの作り方」では、ニセガネ作りたちの失敗を通して、「ホンモノのおカネ」とは何かを考えているのだ、と整理できたのでした。同じように「少年という名のメカ」では、メカ少年の存在を通して「少年」という存在を浮き彫りにしているのだ、と考えることができるのです。
問い 「ホンモノのおカネ」とはどのようなものか?
メカ少年は、いわば「反『少年』」です。「アンチ『少年』」です。
メカ少年の振る舞いは「…したりはしなかった。」と否定形で語られます。それはすなわち、逆にそれをする者としての「少年」の姿を彷彿させるのです。
「少年」は主(あるじ)によって、おかみさんによって、少女によって、物語の語り手によって、様々に語られます。それはいわゆる「あるある」の楽しさに満ちています。「あるある」ネタは漫才などのギャグのパターンとしても最も有力な様式の一つです。この、いちいち思い当たる羅列がこの小説の面白さのひとつです。
このように浮かび上がる「少年」とは一体なんでしょうか?
…と問いかけたところ、後半でS君が「これは『少年』ではなく『少年らしさ』を表しているのではないか」と言ってくれました。前半でもM君が最初から「問い」を「少年らしいとは何なのか?」と表現しています。
確かに問題は「少年らしさ」です。「少年」はどうやら個体ではなく、「あるある」というのはそもそも複数の個体の共通属性です。それらに見られる典型・ステレオタイプが問題なのです。
こういうとき、小説の読解においては、こうした「らしさ」としての「少年」をどのような言葉で捉えるでしょうか? という問いに対してはA君が「象徴」という言葉を上げてくれました。Yさんも「『少年』と『メカ』はそれぞれ何を象徴しているのか?」という言葉で「問い」を表現していました。
そうです。問題は「『少年』とは何の象徴か?」と表現されます。
少々脇道に逸れると、授業者は「メカ少年」は「反」であることによって「少年」を浮かび上がらせるだけだと捉えていたのですが、「メカ」の象徴性についても問うているYさんの問いに、別のYさんの見解を接続させると、この設定は「この世界で様々なものが自然から機械に移行していく様子と通ずる」と捉えることができます。
なるほど。人々の心のケアも、機械化された商品、テクノロジーの進歩によって解決しようとする、我々の世界が「象徴」されているのだ、という捉え方は、この小説の「読み方」として、ひとつ腑に落ちる解釈です。
閑話休題。「少年」です。
象徴とは、それをそのものではなく、別の何かであると見なす、という約束のことです。「何か」は基本的に抽象概念です。
ある文脈において、鳩は鳥ではなく「平和」を、天皇はある個人ではなく「日本国」を表していると見なす、という約束が了解されているとき、鳩や天皇は「象徴」です。
「少年」は何の象徴でしょうか?
先ほどの「特許出願中。」についての考察において、たびたび、そこまでの「世界観」は「物語」的だ、という語られ方がされてきました。
これは読者誰もがすぐに感ずることです(感ずることを言葉にして表現できるということが重要なのですが)。
どのような「物語」と言えばいいのでしょうか?
メディアの種類で言えば、ゲーム(RPG)、アニメ、小説(ラノベ)、マンガ…。
ジャンルで言えばファンタジー、SF…。
様々な設定や描写が、老夫婦や少女のいる世界が、これらのメディアによって語られるこれらのジャンルの「物語」であることを示しています。村の入口にある家にいて、「…じゃ。」という口調で語る、パイプを咥えた老人はどうみてもゲームにおける「村人」です。「エプロンで手をふきふき出てきたおかみさん」「悲しそうな目をした少女」などという形容もステロタイプです。「戦闘機らしき乗り物」などという形容は、その設定の大雑把さを皮肉っているようにも見えます。
そのように作られる「物語」的世界における「少年」とは何を象徴しているでしょうか?
さて、後半組では、話はここで終了だったのですが、前半組ではこの問いに対してS君の的確な答えが提示され、それを受けてYさんがあまりに見事にこの小説を解釈しきってしまいました。
まさかそのタイミングでそのようにこの問題が「解決」してしまうとは思わなかったので、びっくりしました。
明日、プレ講座も残り1回、後半組ではこの「解決」とその先へ向けて、前半組でももう一つの「解決」へ向けて考察を進めたいと思います。
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