以下の記事は、必ず前回記事の課題「曜日を特定する」を終えてから読み進めること。
授業では「プロット作成」の後に一度、「曜日を特定する」の考察の後に一度、話し合いの時間をとる。
考察結果を共有したいということもあるが、重要なことは、考察の方法そのものと手がかりについての発見を交換したいということだ。
考察の手法そのものについての検討も、有益な話し合いの議題となる(のだが、残念ながらここでは以下に明かしてしまう)。
「曜日」を特定するためにはどのような情報が必要か?
曜日のわかっている時点が少なくともどこかで確認されなければならない。
本文で曜日が明示されているのはどこか?
⑦「Kの自殺」が「土曜日の晩」であったという記述である。そして収録部分の最終章49章には、翌朝に「今日は日曜日だ」という記述がある。
次に、他の曜日を推定するための手がかりとなる記述は何か?
本文中に何カ所か、「期間=時間的隔たり」を示す記述がある。確認してみよう。
・二日経っても三日経っても 196頁
・一週間の後 196頁
・二、三日の間 201頁
・五、六日経った後 202頁
・二日あまり 203頁
これらは既にテキスト中にマークされているだろうか。
課題の「曜日の特定」は、これらの日程の記述を手がかりとして、明示された土曜日から遡りながら曜日を特定していくのである。
まずはエピソードを物語の展開に沿って整理する「プロット」を作成した。
次にこれらの出来事の起こった曜日を明らかにする。
これがこの後の読解にどのような影響を及ぼすか?
一連の考察を通して得られる認識は、物語の展開に沿った登場人物の心理を読み取っていく上で、それを実感として想像したり議論の根拠としたりするために有益だ。
たとえば「私」の逡巡がどれだけの日時に渡るものなのか、沈黙に隠れたKの苦悩が何日に渡るものなのか、奥さんはなぜその日に話したのか、Kはなぜその日に自殺を決行したのか、実感として想像する上で、出来事間の「日程」とともに、我々の生活を律する「曜日」の感覚もまた重要な手がかりとなる。「週末」や「週明け」、「週の中頃」といった感覚は心理に影響する。
こうした、読解の前提を授業の最初期に教室で共有しておきたい。
といって、考察の結論にのみ意味があるということではない。
一連の考察を通して、テキスト中から必要な情報を探し出してそれを整合的に結びつけて、そこに生ずる意味を的確に捉えるという、読解の難しさと楽しさを味わってほしいとも思う。
本当はその難しさも楽しさも、他人と一緒に進めることで一層強く感じられる(だからこんなふうに個人作業ではなく、是非とも授業でやりたかった!)。
なぜなら、考察結果は必ずしも一致しないからだ。その時、異なる考察同士を比較し、その考察過程を再検討する必要が生ずる。自らの読みの根拠が問い直される。
そうして初めて、読解という行為の難しさが本当にわかるのであり、同時に、その豊穣さもまた、わかるのである。
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