次に、Kの自殺の動機について考える。
まずは出し合ってみる。いろいろに表現は可能だろうが、似たような内容であると認められるものをまとめていく。
それでも別の要素として分けるのが妥当だと考えられるのは、何項目になるか。
それらの要素のうち、相容れない項目はどれとどれか? 「Kはなぜ自殺したか」をめぐって対立する意見を明らかにしよう。
さて、挙げられた動機は、次の項目のいずれかにあてはまるだろうか?
①お嬢さんを失ったから
②友人に裏切られたから
③「道」に反した自分への絶望
あるいは「自分への絶望」といった場合にも、それが何に由来するものであるかによっては③と別立てする必要もある。
精進の道を逸れたこと。恋心を抱いたこと。それならば③と同じだ。
だが、「友人やお嬢さんの気持ちに気付かなかった自分が許せない」というような意見も出る。
両者は違う。「道を逸れたこと」なら恋心を自覚して以降ずっとKの裡にあった可能性があるが、「気持ちに気付かなかった」なら自殺の直前に初めて生じた動機だ。
そうするとそれは自分を恥じる気持ち? 気づかなかった相手に申し訳ない気持ち? それがKを死に追いやっている?
あるいは、「行動できなかった自分への絶望」というアイデアも出た。お嬢さんが好きなのに手を拱いていて何もできなかった後悔、という意味だ。これは③とは全く違う。
あるいは「絶望」よりもむしろ、自殺をすることがKにとってプライドを守ることになっているのだという意見もある。これはまた上記のいずれともニュアンスが違う。
そのようにして提出された「動機」の解釈があれば選択肢として追加する。
これらは排他的にどれかであると考える必要はない。このうちのいくつかが複合的に働いているのかもしれない。
では上の項目のうち、どれがどのくらいの割合でKを死に追いやったと考えるのか。合計が10になる整数比で表してみよう。
例えば①と②と④が、2:5:3くらいの割合だ、などとKの「動機」としての重みを量るのである。どれか一つが10でもいい。
経験上、最も支持を集めるのは③である。
Kの自殺の動機を③だと考える人は、なぜそう考えるのだろうか?
そうだと考えることは、どのような問題をはらんでいるか?
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