2020年10月13日火曜日

こころ 4 Kの自殺の動機

 次に、Kの自殺の動機について考える。

 まずは出し合ってみる。いろいろに表現は可能だろうが、似たような内容であると認められるものをまとめていく。

 それでも別の要素として分けるのが妥当だと考えられるのは、何項目になるか。

 それらの要素のうち、相容れない項目はどれとどれか? 「Kはなぜ自殺したか」をめぐって対立する意見を明らかにしよう。


 さて、挙げられた動機は、次の項目のいずれかにあてはまるだろうか?

①お嬢さんを失ったから

②友人に裏切られたから

③「道」に反した自分への絶望

 この3項目がまず基本的に推定される動機である。
 上の3項目のいずれにもあてはまらない見解を4番目以降に加えよう。
 授業者の経験上、常に一定の支持を受けるのは「④『私』に対する復讐」説である。死をもって「私」に罪悪感を植え付け、一生忘れさせないようにした、というのだ。
 一方で「⑤『私』に対する気遣い」説も珍しくない。結婚する二人の邪魔にならないように自分を消し去ろうというのだ。

 あるいは「自分への絶望」といった場合にも、それが何に由来するものであるかによっては③と別立てする必要もある。

 精進の道を逸れたこと。恋心を抱いたこと。それならば③と同じだ。

 だが、「友人やお嬢さんの気持ちに気付かなかった自分が許せない」というような意見も出る。

 両者は違う。「道を逸れたこと」なら恋心を自覚して以降ずっとKの裡にあった可能性があるが、「気持ちに気付かなかった」なら自殺の直前に初めて生じた動機だ。

 そうするとそれは自分を恥じる気持ち? 気づかなかった相手に申し訳ない気持ち? それがKを死に追いやっている?

 あるいは、「行動できなかった自分への絶望」というアイデアも出た。お嬢さんが好きなのに手を拱いていて何もできなかった後悔、という意味だ。これは③とは全く違う。

 あるいは「絶望」よりもむしろ、自殺をすることがKにとってプライドを守ることになっているのだという意見もある。これはまた上記のいずれともニュアンスが違う。

 そのようにして提出された「動機」の解釈があれば選択肢として追加する。


 これらは排他的にどれかであると考える必要はない。このうちのいくつかが複合的に働いているのかもしれない。

 では上の項目のうち、どれがどのくらいの割合でKを死に追いやったと考えるのか。合計が10になる整数比で表してみよう。

 例えば①と②と④が、2:5:3くらいの割合だ、などとKの「動機」としての重みを量るのである。どれか一つが10でもいい。


 経験上、最も支持を集めるのは③である。

 Kの自殺の動機を③だと考える人は、なぜそう考えるのだろうか?

 そうだと考えることは、どのような問題をはらんでいるか?


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